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日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業
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基礎研究:副腎皮質のマクロファージに関する研究

1. はじめに

副腎内にはステロイドホルモンを作る細胞以外に様々な細胞が存在します。そして最近の解析技術の発展に伴い、副腎内に存在するマクロファージが副腎皮質が作るホルモンの量を調整していることが分かってきました。マクロファージは免疫細胞の一種で、体の中をパトロールし、細菌やウイルスなどを見つけて食べて処理する役割を担っています。副腎皮質のホルモンは、体が細菌やウイルスなどにより攻撃されたときに、普段の10倍程度まで増えることが分かっています。副腎内のマクロファージはこのような状況下で副腎皮質ホルモンを迅速に増やす働きを担っていて、また副腎皮質ホルモンが増えすぎない様にこまかく調整する働きも持っていることが報告されています。

先天性リポイド副腎過形成症では、副腎や性腺にマクロファージが集積してくることが分かっています。このような病的状態でのマクロファージの機能を調べることで、副腎や性腺のホルモン産生能を回復させる新たな治療戦略が見つかる可能性もあります。マウスを使った3つの最新の基礎研究をご紹介します。

2. 男女差に特化した副腎マクロファージの多様性と機能の解明

マクロファージは体中至るところで働いていますが、副腎にいるマクロファージの種類、起源、役割についてはあまり知られていません。この論文の著者たちは、シングルセルRNAシーケンシングという最新の技術を使って副腎の免疫細胞の多様性を調べ、遺伝子を操作する方法でこれらの細胞がどのように発達するかを探りました。

その結果、副腎のマクロファージには、単球という細胞から来るものと、胚の段階からいるものの2種類があることがわかりました。また、雌マウスに特有のタイプで、特定の分子(MHCクラスII)が少ないマクロファージを見つけました。成獣になると、雌マウスの副腎では、新しいマクロファージが単球により補充されていることも判明しました。副腎のマクロファージの分布は性別によって異なり、特にMHCクラスIIが少ないマクロファージは、副腎の特定の場所(皮質と髄質の境界)に集まります。この性別の違いは、副腎の一部である「皮質Xゾーン」が関係しています。副腎のマクロファージが減少すると、体の恒常性が乱れ、ストレス時のアルドステロンの産生が減少します。これらのデータから、副腎のマクロファージが多様であり、その分布や機能に性別による違いがあることがわかりました。

Dolfi B, et al. Cell Rep 2022; 39: 110949

3. 副腎マクロファージはTrem2とTGFβを介してグルココルチコイド産生を調節する

副腎はストレスを受けたときにホルモン(グルココルチコイド)を作り出しますが、このプロセスは脳の視床下部と下垂体によって調整されます。最近の研究では、マクロファージという免疫細胞がこのホルモンの生産に関わっている可能性が示唆されていますが、その具体的なメカニズムは不明でした。この研究では、寒さや動脈硬化による炎症といった急性または慢性のストレスに対する副腎マクロファージの役割を調べました。シングルセルRNAシーケンシングという技術を使って、ストレスを受けたときに副腎マクロファージがどのように変化するかを詳細に観察しました。

その結果、ストレスによって副腎マクロファージが特定の活性化状態に変わることがわかりました。特に重要だったのは、Trem2というタンパク質がストレス後に大幅に増加することでした。そこで、このTrem2をマクロファージから削除するとどうなるかを調べたところ、次のようなことがわかりました:1)マクロファージの数が減少する、2)マクロファージがTGFβという別の重要な分子を作り出す能力が失われる、3)グルココルチコイドの生産が増加する。さらに、TGFβの働きを阻害しても同じようにグルココルチコイドの生産が増えることが確認されました。

これらの結果から、副腎マクロファージがTrem2とTGFβを通じてホルモンの生産を制御していることが示されました。この発見は、免疫システムを標的とした新しいストレス関連疾患の治療法の開発につながる可能性があります。

Xu Y, et al. JCI Insight 2024; 9: e174746.

4. 副腎マクロファージはコルチコステロイドの産生を調節する

副腎には「マクロファージ」が存在することが30年以上前から知られていましたが、その役割は不明でした。他の組織では、マクロファージが免疫機能以外の様々な生理的役割を果たしていることが分かってきているため、副腎のマクロファージにも未知の機能があるのではないかと考えられていました。

この研究では、副腎には2種類の異なるマクロファージが存在することが明らかになりました。1つ目は、若いマウスにも年を取ったマウスにも見られる樹状細胞のような形のマクロファージで、副腎全体に広がっています。2つ目は、年齢と食事に関係して増える「泡状の」脂肪をたくさん含むマクロファージで、主に副腎の外側(皮質)に集積しています。特に興味深いのは、この「泡状の」マクロファージの働きです。これらのマクロファージはコレステロールを蓄積し、それによって副腎ホルモンの分泌量を調整していることが分かりました。この調整機能は、通常の状態だけでなく、肥満の場合にも働いているそうです。

この発見は、私たちの体のホルモンバランスを保つ仕組みの新しい側面を示しています。副腎のマクロファージが単なる免疫細胞ではなく、ホルモン分泌の調整という重要な生理的機能を担っていることが明らかになったのです。この研究結果は、将来的にストレス関連の疾患や肥満に関連した健康問題の理解を深め、新たな治療法の開発につながる可能性があります。また、副腎ホルモンの生成メカニズムについての理解を深めることで、ホルモンバランスの乱れに関連する様々な症状や疾患の解明にも貢献することが期待されています。

O’Brien CJO, et al. bioRxiv 2023

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